【洋菓子店の現場から】vol.24 「成功するのは簡単なんですよ。」

【洋菓子店の現場から】vol.24 成功するのは簡単なんですよ。

今から20年以上前、私がまだサラリーマンだった頃の話です。 私は新卒で経営コンサルティングの会社に入社し、中堅・中小企業の経営者の皆様をお客様として仕事をしていました。

20代半ばの若造が、歴戦の経営者の方々を相手に仕事をしていたわけです。その中に、一代で年商1100億円の会社を築き上げた社長がいました。

ある日、その社長から会議のあと、こんなことを言われました。

「伊東さん、成功するのは簡単なんですよ。」

「えっ?何ですか?教えてください。」

思わずそう尋ねた私に、社長はこう答えました。

「成功するまで努力すればいいんですよ。みんなすぐ途中で辞めちゃうからね。」

「!!」

当時、ものすごく感激したのを覚えています。「サラッと言っているけど、ものすごく本質的なことだ。」

20代半ばだった私にとって、その言葉は強く心に響きました。この言葉は、その後の私の人生において、とても大切な指針になりました。

7億円の借金を背負って始めた事業

この社長には、もう一つ忘れられない話があります。社長のご実家は運送業を営んでおり、ご自身もその会社で働いていたそうです。

しかし、将来性に不安を感じ、自分で新しい事業を始めることを決意されました。そのときに背負った借金は、なんと7億円。

いきなり、7億円の借金で独立。

どうやってそれだけの融資を受けたのかというと、ご家族はもちろん、親戚の方々にもお願いをして、それぞれの家を担保に入れてもらったそうです。

「あの時、失敗していたら全員夜逃げしないといけなかったよ。」

社長は、そんな話を淡々とされていました。私はその話を聞いて、正直、経営者としての覚悟の次元が違うなと思いました。

もちろん、これほど大きなリスクを背負うことが正しいという話ではありません。 ただ、この社長がどれほどの覚悟を持って事業を始め、そして育ててきたのか。その話は、今でも強く印象に残っています。

自分の給料を1円も受け取れなかった創業期

その後、私はサラリーマンを辞め、2009年に洋菓子店を創業しました。今でこそ、ある程度事業を成長させることができましたが、創業当初は本当に大変でした。

売上は現在の10分の1ほど。現在と比べるとはるかに非効率で、生産性も低かったため、売上は少ないのに忙しいのです。

朝から晩まで、場合によっては翌朝まで仕事をしていました。

「また、今日も丑三さんだよ~」

丑三(うしみつ)というのは、丑三つ時のことです。深夜2時頃ですね。深夜2時を過ぎて働くのが、もう当たり前でした。

それでも、自分の給料を1円も受け取れない時期がありました。本来、自分の報酬に充てるはずのお金を、パート・アルバイトのスタッフへの給与の支払いに回していたのです。

これだけ働いているのに、自分の給料すら出せない。普通に考えれば、かなり厳しい状況だったと思います。でも、不思議と私は冷静でした。あの社長の言葉が、ずっと頭の中にあったからです。

「成功するまで努力すればいい。」

そして、7億円の借金を背負って事業を始めた社長のことを思い出すと、自分の借入金は1200万円。もちろん、当時の自分にとってはものすごく大きな金額ですが、7億円と比べるとたかが知れています。

あの社長の話を聞いていたからこそ、自分の置かれた状況を必要以上に悲観することなく、意外と冷静でいられました。

「じゃあ、どうすればいいだろう。」そう考えることができていました。

考え続け、行動し続ける

何を変えれば、お客様にもっと喜んでいただけるのか。そうしたことを考え、課題に対して一つずつ対策を実行していきました。

その中でも、事業の成長に大きく寄与したのが、オリジナルデザインの焼菓子ギフトパッケージへの投資です。当時、手元の現金が400万円しかない中で、146万円を投資しました。

創業期に投資して制作したオリジナルデザインの焼菓子ギフト箱
創業期に大きな決断をして制作した、オリジナルの焼菓子ギフト箱。

※包装資材への投資については、 こちらのコラムで詳しくご紹介しています。

ありがたいことに、その取り組みがお客様に受け入れられ、少しずつ売上や利益につながっていきました。もちろん、何もかもが順調だったわけではありません。

失敗もありましたし、思うような結果が出ないこともありました。それでも、考え続け、行動し続ける。その積み重ねによって、事業は年々成長していきました。

今も、めちゃくちゃもがいています

創業から、もうすぐ18年になります。おかげさまで、創業当初と比べれば、事業の状況は大きく変わりました。

でも、だからといって問題がなくなったわけではありません。今でも、次から次へといろいろな問題が起こります。

「あ~~!!もういい加減にしろよ!」

と思うこともしょっちゅうです。今も、めちゃくちゃもがいています。ただ、そんなときにも、あの社長の言葉が私の心のよりどころになっています。

「成功するまで努力すればいいんですよ。みんなすぐ途中で辞めちゃうからね。」

この言葉があるからこそ、目の前の問題を必要以上に悲観することなく、「じゃあ、どうすればいいか」と考えることができます。

成功するまで努力を続ける。

その為に、考え続け、行動し続ける。言葉にすると、とてもシンプルなことです。でも、実際に行動し続けることは、決して簡単ではありません。

あの日、社長から教えていただいた言葉。今も、私の人生の大きな支えになっています。

「成功するのは簡単なんですよ。」

20年以上経った今でも、あの日の社長の声は、鮮烈に私の心に残っています。

「洋菓子店の現場から」は、ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋を営む中で、実際に起きていること、感じたこと、考えたことを綴るコラムです。

原材料や包装資材のこと、お菓子づくりのこと、働く人のこと、そして店を続けていく中での小さな工夫や迷い。

きれいにまとめすぎず、洋菓子店の現場で起きていることを、できるだけそのままお伝えします。

ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋の店舗外観
この記事を書いている人
ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 経営者

2009年1月の創業以来、洋菓子店の経営に携わっています。
当店は食べログ「スイーツ百名店」に継続して選出されています。
このシリーズでは、長年店を営む中で実際に経験したことや、日々の判断、失敗、工夫などを、経営者の立場からお伝えしています。