1店舗しかない洋菓子店ですが、投資はかなりしてきました。
ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋の厨房。1店舗だけの小さな洋菓子店ですが、これまで設備や製造環境にはかなり投資してきました。
ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋は、1店舗しかない小さな洋菓子店です。
でも、設備や包装資材への投資は、かなりしてきた方だと思います。 しかも、お金に余裕ができてから投資したわけではありません。
「これで本当に合っているのか。」
「失敗したらどうしよう。」
そう思いながら、かなり無理をして先に投資してきたこともあります。 今回は、そんな当店の「投資」について書いてみたいと思います。
「洋菓子店の現場から」は、ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋を営む中で、実際に起きていること、感じたこと、考えたことを綴るコラムです。
原材料や包装資材のこと、お菓子づくりのこと、働く人のこと、そして店を続けていく中での小さな工夫や迷い。
きれいにまとめすぎず、洋菓子店の現場で起きていることを、できるだけそのままお伝えします。
1店舗しかないのに、オーブンは4台あります
当店には、デッキオーブンが2台、コンベクションオーブンが2台あります。 合計4台です。
1店舗だけの洋菓子店として考えると、かなり多いと思います。 当店の規模で考えると、かなり大きな設備投資です。
店内で使用しているコンベクションオーブンとデッキオーブン。商品によって焼成方法を使い分けています。
では、なぜ4台も入れているのか。 たくさん作りたいから、だけではありません。
オーブンを増やしたのは、たくさん作るためだけではありません
デッキオーブンは、上と下から熱を入れて焼成するオーブンです。 気密性が高く、しっとり、ふわふわのスポンジ生地などを短時間で焼くのに向いています。
一方、コンベクションオーブンは、熱風を循環させて焼成します。 シュー生地、サブレ、フリアンなどの焼菓子の焼成に向いています。
そして、複数台あることの大きなメリットが、 「オーブン待ちがなくなる」ことです。
例えば、コンベクションオーブンでフリアンを焼きながら、デッキオーブンではスポンジ生地を焼く。
同時に違う商品を進めることができます。
オーブンが1台だけだと、スポンジ生地を焼き、温度を上げてサブレを焼き、今度は温度を下げてプリンを焼くなど、順番に進めるしかありません。
焼成そのものの時間だけではありません。温度が上がるのを待つ。下がるのを待つ。前の商品が焼き上がるのを待つ。
こういう「待ち時間」が積み重なっていきます。
製造時間が長くなれば、当然、働く時間も長くなります。 オーブンを複数台入れた目的は、商品品質を上げること。 そして、生産性を上げること。 この両方でした。
製造拠点も2か所に分けました
当店は1店舗しかありませんが、製造拠点は2か所あります。 焼菓子の製造に特化した拠点を別に設けています。
そう思われるかもしれません。 でも、焼菓子を専門に製造する場所を作ることで、かなり仕事が変わりました。 焼菓子だけの製造計画を組める。 設備も焼菓子製造に合わせて配置できる。厨房面積も広くなります。
設備を増やしている理由は、単純に生産量を増やしたいからではありません。 同じ時間で、より良いものを、より安定して作れる状態にしたい。 そこが一番大きいです。
1400万円の急速冷凍庫を入れました
さらに、フランス製の製菓専用急速冷凍庫と保管用冷蔵庫も導入しました。 Henjel(エンジェル)という設備です。 フランスから船で約3か月かけて運ばれてきます。
それはまぁ、高いです。
フランス製の製菓専用急速冷凍庫・冷蔵庫 Henjel。導入価格は約1400万円でした。
でも、その時、お金はありませんでした
エンジェルの導入までは、本当に苦労しました。 当時の財務状態では、1400万円を銀行から借りることができませんでした。 でも、どうしても入れたかった。 いろいろ調べていく中で、公的なリース制度があることを知りました。
くらいの気持ちで相談しました。 結果として、何とか制度を利用して導入することができました。
毎月のリース料 約15万円
年間 約180万円
当時としては、かなり大きな固定費です。 しかも、この頃は資金繰りにも余裕がありませんでした。 ギリギリです。 それでも、導入しました。
「これで合っているのか」と、何度も一人で考えました
今もそうですが、当時も、大きな判断について誰かに相談できるわけではありません。 最後は、自分で決めるしかありません。 リース制度が使える。エンジェルを導入できる。 そこまで進んでも、契約書にサインする前ならやめることができます。
毎晩考えました。
「失敗したらどうしよう。」
「固定費が毎月15万円増えるのはキツイな……。」
「この判断は間違っていないか。」
「借入も目一杯しているのに、さらにリースで固定費を増やすのか……。」
何度も考えました。 当時、本当に寝付きが悪かったのを覚えています。 今から振り返れば、「入れて良かった。」と言えます。 でも、その時点では分かりません。 結果を知った状態で判断しているわけではないので。 かなり重い判断だと、自分では感じていました。
それでも、どうしても入れたかった理由
エンジェルを入れる前にも、当店には国内製の-20℃で冷やす急速冷凍庫がありました。 当時使っていた設備では、ムースなどを仕込んで冷やし固めるのに、かなり時間がかかっていました。
朝に仕込み、冷凍庫に入れる。 そこから固まるのを待ちます。 型から外せるようになるのは、夕方から夜。 半日仕事です。 それがエンジェルでは、約50分。
最初はかなり衝撃でした。
ムースの仕込み風景。急速冷凍によって冷却時間を大幅に短縮しながら、滑らかな口当たりを保ちやすくなりました。
でも、早いだけなら、1400万円の設備を入れる理由としては弱いと思います。 私が入れたかった大きな理由は、商品品質も同時に上げられることでした。
エンジェルは、-50℃で一気に冷やします。 さらに、冷気が商品に直接当たりにくいよう気流も設計されていて、冷凍焼けによる品質低下も起こりにくくなっています。
ゆっくり冷凍すると、商品中の水分が大きな氷の結晶になりやすくなります。 すると、解凍した時に組織が壊れ、食感や風味に影響します。
-50℃で一気に冷やすことで、その氷の結晶を大きくしにくくする。 結果として、ムースなどの滑らかな口当たりを保ちやすくなります。 実際、冷凍した状態でもスッと包丁が入るくらい、状態が違います。 当店のムースなどを食べて、「口どけが良い。」と言っていただくことがあります。
もちろん配合や製法もありますが、この設備の力もかなり大きいと思っています。
生産性向上 半日から約50分へ
商品品質向上 より滑らかな口当たりへ
この2つを同時に実現できる。 だから、かなり無理をしてでも導入したかった設備でした。
創業した頃は、130万円の食洗器も買えませんでした
こういう設備投資を最初からできていたわけではありません。 創業した頃、食洗器を導入しようとしました。 価格は、値切って安くしていただいて約130万円だったと思います。
それで、食洗器を探しました。
現在使用している2代目の食洗器。創業時、初代の食洗器を導入する資金の確保にはかなり苦労しました。
でも、創業したばかりです。 まったく、実績がありません。 当然、銀行は貸してくれません。
その時に、ひょうご産業活性化センターという公的機関に設備貸与の制度があることを知りました。 担当者の方に相談しました。
かなり必死でした。 実績がないので、これまでの実績を説明することもできません。 これからどういう取り組みをして、どういう店にしていきたいのか。 そんな話をするしかありません。 いろいろ説明した記憶があります。
その時、担当者の一言がとても心に残っています。
翌月の会議で稟議を通していただき、ようやく食洗器を導入することができました。 今思い返しても、ありがたかったです。 食洗器は、私にとって思い入れのある設備の一つです。 約10年使った後、今は2代目に変わっています。
ちなみに、その当時担当してくださった方は、その後一度担当を外れました。 そして数年後、昇進されて、また当店に関わっていただくことになります。 エンジェルを導入した時にも、公的制度を使うという考えが頭にあったのは、創業時のこの経験があったからだと思います。
現金400万円の時に、146万1915円を包装資材に使いました
設備だけではありません。 包装資材にも、かなり投資してきました。 4期目の頃です。 当時の売上は、現在の3分の1以下。 手元にあった現金は、約400万円。 その時に、焼菓子ギフトの箱と紙袋をオリジナルデザインにしました。
支払額は、
オリジナルデザインで製作した焼菓子ギフト箱。4期目、まだ売上規模が小さい時期に、紙袋と合わせて大きな投資をしました。
今なら、オリジナルの包装資材を作れば、それなりの金額がかかることは分かっています。 でも当時は初めてでした。
「包装資材って、こんなにお金がかかるのか……。」
そして、翌月末に146万1915円の支払い。
「きっとお客様に喜んでもらえる。多分……。」
あくまで、「多分」です。 オリジナルの箱や紙袋を作ったからといって、売れる保証なんてありません。
「支払い後の現金100万円台か……。」
「15日後の給料払えるかな?ヤバいな。」
この時も、一人で悶々としていました。 それまで包装資材に140万円以上を一度に使ったことなんてありません。 かなり怖かったです。
「きっとお客様に喜んで貰えるはず!」
「・・・と思う。。」
結果的には、お客様に喜んでいただけて焼菓子ギフトの出数は大きく増えていきました。 しかし、146万円の支払いをした日は本当に不安しかありませんでした。
自動釣銭機・POSレジにも投資しました
製造設備や包装資材だけではありません。 店舗のレジにも投資しています。 自動釣銭機は、国内最大手グローリーのものを導入しました。 1店舗しかないのに、自動釣銭機です。 それだけで約100万円。 POSレジなども含めると、全体では約500万円近い投資になりました。
店頭で使用している自動釣銭機。会計ミスや待ち時間、スタッフのレジ作業を減らすために導入しました。
この投資のメリットはかなりあります。 会計ミスが減り、お客様の会計待ち時間も短くなりました。
レジ業務が簡単になり、スタッフが覚えることも減ります。 営業終了後のレジ締めも、以前は10分ほどかかっていたものが、今では1分ほどです。
お客様にもプラス。
スタッフにもプラス。
お店にもプラス。
こういう投資は、私はかなり好きです。
余裕ができてからではなく、先に投資してきました
まだ他にもいろいろありますが、いくつか思い出しながら書いてみました。 本当に色々なことがありました。
そう思うことばかりです。 当店の投資は、現金が増えて、余裕ができて、それから投資した。 という順番ではありませんでした。 むしろ逆です。
↓
商品品質が上がる。
生産性が上がる。
↓
売上・利益が向上する。
↓
現金が増える。
↓
次の投資に資金を回せるようになる。
振り返ると、そんな循環を少しずつ作ってきたのだと思います。 もちろん、「無理をして投資すれば良い」という話ではありません。 私が投資を判断する時の基準は、このあたりです。
お客様にとってプラスになるか。
商品品質が上がるか。
生産性が上がるか。
スタッフにとってプラスになるか。
この判断基準は多分ですが、結果から見ると間違っていなかったのだと思います。
設備や包装資材にお金を使うこと自体に意味があるわけではありません。 その投資によって、お客様に今までより良いものを届けられるのか。 スタッフが今までより良い仕事をできるのか。 店として、より良い状態になれるのか。
そこが大事だと思っています。
結果として、これまでの投資の多くが、今の売上や利益、現金につながったのだと思います。 でも、投資した時点では、そんな未来が見えていたわけではありません。 「恐怖」を感じながら、判断をし、結論を出していました。
判断を間違えると最悪の場合、倒産します。 その責任は重く、重圧がのしかかります。 今でも大きな判断をする時は本当に怖いです。
でも、「あの時、やっておいて良かったな。」と思える。 そんな投資を、これからも1つ1つ進めていきたいと思っています。
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