洋菓子店の現場から

現金を約136万円、包装資材に変えました。

ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋で保管している包装資材の在庫

箱や袋、フィルムなどの包装資材も、必要な時に欠品しないよう先を見越して在庫を持っています。

今期の決算では、包装資材の在庫金額が前期と比べてかなり増えました。

135万8997円。

約136万円分の「現金」が「在庫」に変わり、寝ている状態です。 私たちのような1店舗だけの小さな洋菓子店にとっては、なかなか大きな金額です。

現金の効率だけを考えれば、決して良い状態とは言えません。

それでも、私はあえて在庫を増やしました。

「洋菓子店の現場から」は、ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋を営む中で、実際に起きていること、感じたこと、考えたことを綴るコラムです。

原材料や包装資材のこと、お菓子づくりのこと、働く人のこと、そして店を続けていく中での小さな工夫や迷い。

きれいにまとめすぎず、洋菓子店の現場で起きていることを、できるだけそのままお伝えします。

ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋の店舗外観
この記事を書いている人
ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 経営者

2009年1月の創業以来、洋菓子店の経営に携わっています。
当店は食べログ「スイーツ百名店」に継続して選出されています。
このシリーズでは、長年店を営む中で実際に経験したことや、日々の判断、失敗、工夫などを、経営者の立場からお伝えしています。

包装資材の在庫を、前期より約136万円増やしました

今期の決算で、包装資材の在庫金額が前期より135万8997円増えました。

「現金」が「在庫」に変わっている状態です。

在庫が増えれば、その分だけ現金は長い間使えなくなります。

売れなければ、いつまでたっても現金化しません。資金繰りは悪化します。 経営の効率だけを考えれば、在庫は少ない方が良い。

それは分かっています。

自動包装機用フィルムを、7000mから14800mへ

自動包装機で使用するロール状の包装フィルムのイメージ

クッキーやサブレは、ロール状のフィルムを自動包装機にセットして包装します。画像はイメージです。

クッキーやサブレは、自動包装機を使って包装しています。 そこで使うのが、大きなロール状の包装フィルムです。

これまでは、1回の発注で約7000mを仕入れていました。 今年、それを大きく増やしました。

7000m から 14800mへ これまでの2倍以上です。

クッキー1枚を包装するために使用するフィルムは、約86mm。

14800m 単純計算で、約17万枚分です。

これだけの量を在庫すると、使用期間は1年を大きく超えます。

なぜ、そこまで在庫を持つのか

在庫を増やすことには、メリットもデメリットもあります。

メリット

仕入量を増やすことで、1枚あたりの単価を下げることができる。

不測の事態が起きた時にも、一定期間は商品を作り続けることができる。

デメリット

一度の支払額が増える。

現金が長期間、在庫に変わることで資金効率が悪くなる。

商品が売れなければ、在庫はいつまでたっても現金化しない。

当然、デメリットもあります。

それでも今回、在庫を増やしておいて良かったと思う出来事がありました。

有事になると、包装資材にも影響が出る

2026年2月末以降、中東情勢が急激に悪化しました。

ホルムズ海峡ではタンカーの通航が事実上困難となり、原油だけでなく、石油化学製品の重要な原料であるナフサの供給にも大きな影響が出ました。

包装用フィルムの原料となる樹脂は、ナフサなどを原料とする石油化学製品です。

そして4月以降、私たちのところにも影響が出始めました。

「値上げのお知らせです。」

それだけではありませんでした。

「1000枚ご注文いただいていますが、500枚でお願いします。」

と、既製品の包装資材では購入制限される始末。。

当店では、包装資材の大半をオリジナルで作っています。 ただ、ごく一部ではメーカーが作って販売している既製品も使用しています。

こちらは1000枚必要だから注文しているのに、500枚しか購入できない。

しかも、値上げもセットでの案内です。。。

お菓子は作れても、フィルムがなければ売れません

包装資材は、お菓子づくりでは脇役に見えるかもしれません。

でも、クッキーを作っても、それを包装するフィルムがなければ商品にはできません。

お菓子はいくら作れても、
フィルムがなければ売れません。

今回、私たちはたまたま中東情勢が悪化する直前に、これまでの2倍以上となる14800mを発注していました。

そのため、値上げ前の価格でフィルムを手配することができました。 通常なら、発注から納品までは約1か月です。

納期は、3から5か月へ

この時は、納期がそこまで大幅に伸びました。

事前に発注していなければ、包装フィルムの在庫切れになる可能性はかなり高かったと思います。

「いやぁ、運が良かった!」
「焼菓子の売上がゼロになるところだった。」

本当にそう思いました。

先に在庫を確保していたことで、有事の最中でも心穏やかに営業を続けることができました。

在庫は「事業を止めないための保険」でもある

在庫を多く持つことは、現金効率だけを見れば非効率です。

でも今回、実際に供給が不安定になる状況を経験して感じました。

在庫は、
「事業を止めないための保険」でもある。

もちろん、何でも大量に仕入れれば良いわけではありません。

でも、欠品すると営業そのものに大きな影響が出るものについては、少し違う考え方が必要なのだと思います。

ただし、包装資材は安ければ良いとは考えていません

ここまで書くと、包装資材はできるだけ安く仕入れることを大切にしているように見えるかもしれません。

でも、それだけではありません。

商品の価値を高めること。

これも包装資材の大切な役割だと考えています。

和三盆ボーロのフィルムは、あえて約60%コストアップしました

当店の人気商品「和三盆ボーロ」のフィルムも、今年リニューアルしました。

旧フィルム 7200m 22.7万円
↓
新フィルム 7200m 36万円

約60%のコストアップです。

さらに新しいオリジナルデザインを作るため、初回には版代として5万円もかかりました。

1袋に使用するフィルムは約150mmです。 7200mですから、単純計算で約48000袋分になります。

リニューアル前の和三盆ボーロ用の無地フィルム

以前のフィルム

以前使用していた、無地の和三盆ボーロ用フィルムです。

ポッシュ・ドゥ・レーヴのロゴを入れた新しい和三盆ボーロ用フィルム

新しいオリジナルフィルム

Poche du Reveのロゴを入れ、より上質な印象になるよう変更しました。

コストが上がっても、商品価値を高めたい

以前の無地フィルムも、品質に問題があったわけではありません。 でも、新しいフィルムの方が、より上質な印象を与えることができます。

商品そのものの良さも、よりお客様に伝わると考えました。

包装資材は、お菓子そのものではありません。
でも、商品の価値をつくる重要な要素です。

コストは大きく上がります。

それでも、お客様が商品を手に取った時に感じる価値を高めることを優先しました。

和三盆ボーロとオリジナル化粧箱、紙袋

お菓子だけでなく、袋や箱、紙袋まで含めて、お客様が受け取る一つの商品だと考えています。

ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋の和三盆ボーロ用化粧箱

商品を手に取った瞬間から、上質さが伝わることも大切にしています。

コストを下げるところと、あえて上げるところ

自動包装機用のフィルムは、発注量を増やして1枚あたりの単価を下げる。

一方、和三盆ボーロのフィルムは、商品の価値を高めるためにコストアップを受け入れる。 一見すると、逆のことをしています。

でも、目的は同じです。

できるだけ低いコストで商品を用意する。

そして、必要なところにはお金をかけて、商品の価値を高める。

どちらも、 「お客様に、より良い商品やサービスを届けること」 が目的です。

在庫リスクを負うことでコストが下げられるなら、私たちが在庫リスクを負う。

コストが上がっても、より良い商品につながるのであれば投資する。

どこで効率を取り、どこにお金をかけるのか。

お店を続けていくうえで、とても大切な判断です。

在庫を減らすことが、いつも正しいとは限らない

経営のセオリーでは、在庫が多いと資金効率が悪くなると言われます。 それ自体は間違っていないと思います。

でも、時には在庫を多く持つことが、お客様にとって良い結果につながることもあります。

在庫を増やして、1枚あたりのコストを下げる。 同時に、有事が過ぎるまで事業を止めずに済む環境をつくる。

そして、コストを下げるだけではなく、商品の価値を高めるところには投資する。

「在庫はムダ。」
「在庫は資金繰りを悪化させる。」

こうしたセオリーだけでは、実際のお店の運営はできないのだろうなと思います。

常に忘れてはいけないのは 「お客様の視点」 です。

経営のセオリーとは逆のことをしているように見えても、 その結果として商品の供給を止めるリスクを減らし、商品の価格上昇をできるだけ抑えることにつながる場合があります。

在庫を減らすことが、
いつも正しいとは限らない。

今回は、私自身にとっても良い勉強になりました。

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